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ハタラキアリの徒然日記

働く中で気づいたことについて書くブログです。仕事での「気づき」やビジネス書の書評などを書いています。

生産性の向上による総付加価値の拡大を目指す|伊賀泰代「生産性」

生産性の向上はあくまで手段であって目的ではありません。この本はそこが少しぼやけています。

著名なコンサルタントである大前研一さんは「読んだ時間の3倍考えなさい」とおっしゃっているようです。このブログの書評では、書評に加えて私が3倍考えた結果を書いています。

「生産性」概要

日興証券、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て独立された伊賀泰代さんの著書です。

兵庫県出身。一橋大学法学部を卒業後、日興證券引受本部(当時)を経て、カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネスにてMBAを取得。1993年から2010年末までマッキンゼー・アンド・カンパニー、ジャパンにてコンサルタント、および、人材育成、採用マネージャーを務める。2011年に独立し、人材育成、組織運営に関わるコンサルティング業務に従事。著書に『採用基準』(2012年、ダイヤモンド社)

伊賀泰代「生産性 マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの」2016年。

生産性が高いとはどういうことであり、生産性を高めるために何をしなければならないのか、について書かれています。

伊賀泰代について

伊賀さんは私が最も尊敬する方の1人です。

高い行動力を武器に自立して生きるその生き方からは、非常に多くのことを学ばせていただいております。

一方で、伊賀さんの著書やブログについてはあまり信用しておりません。

伊賀さんの著書やブログはマーケティングの色合いが強く、「正しいもの」よりも「反応のあるもの」を、「重要なもの」よりも「読まれるもの」を扱う傾向があります。

このような徹底したビジネス的姿勢そのものは尊敬に値するのですが、「正しいもの」や「重要なもの」に意義を感じる人たちには受け入れられないでしょう。

このことを念頭において、伊賀さんの著書から「正しいもの」や「重要なもの」を引き出すべく考えながら、生産性という本を読みました。

「正しいもの」へ

上のように「反応のあるもの」や「読まれるもの」が書かれているため、矛盾や誇張もありますし、検討すべきほかの項目を捨象しすぎています。

そのような傾向が特に強いと感じた点をいくつか書きたいと思います。

採用の生産性を上げるために応募者を減らす

採用の生産性をあげるためには、応募者を増やす施策をとるべきではないと書かれています。

生産性向上の観点からは、「五〇人にひとりではなく五〇人にふたり、採用できる学生が含まれるようにする方法」を考えるのが正しい検討の方向です。

(中略)

しかし現実には、そのために投入される努力や予算、そして知恵の量は、応募者数を倍にするために投入されるそれらに比べて、圧倒的に少ないのです。

伊賀泰代「生産性 マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの」2016年。

実際にはさまざまな論点から採用の生産性について書かれており、究極的には「10人の応募で10人採用」という方向性を目指すべきだという論調になっています。

しかし、この議論にはそれこそ生産性についての感覚が欠如しています。

生産性とは、インプット量に対するアウトプット量ですから、採用の生産性をあげるためには「入社する候補者の質をあげる」という観点が不可欠です。

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応募者の増加が入社する候補者の質の向上につながるのであれば、「いかに効率的にスクリーニングを行うか」が重要であり、応募者数を減らすこと自体は重要ではないはずです。

このように、この本の例の多くは「インプット量を減らす」ことに偏っており「アウトプット量を増やす」ことが軽視されています。

生産性の向上は目的ではない

評価については多くの紙面が割かれていますが、ほとんどが「生産性のみで評価されるべき」といった主張となっています。

成果も達成目標も生産性の伸びによって設定すればいいのです。そうすれば目標に上限もなくなるし、毎年ごくわずかの生産性の向上でも、長年続ければ大きな進歩となります。

伊賀泰代「生産性 マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの」2016年。

生産性の向上は、同じアウトプットをより短い時間・少ないリソースで生み出すための手段であって、それ自体は目的ではありません。

伊賀さんの主張では生産性の向上そのものが目的となってしまっており、仕事のアウトプットを増やすことにつながっていません。

100のアウトプットを10時間で生み出すのと、50のアウトプットを4時間で生み出すのとを比べれば、前者のほうが業績その他に貢献しているのは明らかです。

伊賀さんの「正しい」主張

いわゆる「働き方改革」については次のように書かれています。

長時間労働の是正に関しても、「低い生産性の仕事を長時間、社員に課している企業」と「極めて高い生産性で朝から晩まで働き、圧倒的なスピードで世界を席巻してゆく企業」の違いが理解されているようにはみえません。

伊賀泰代「生産性 マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの」2016年。

ほかにも、最終的な目標についてはこのように書かれています。

目指すべきは生産性の向上による総付加価値の拡大です。

伊賀泰代「生産性 マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの」2016年。

これらは極めて「重要なもの」であり「正しいもの」だと思います。

本来はこういった論点を深掘りすべきなのですが、伊賀さんは、生産性の向上を目的かのように書いたほうが「読まれる」「反応がある」と考えているのでしょう。

この本を読むにあたっては、「どうすれば総アウトプット量を増やせるか」や「生産性向上によってできた余裕で何をしようか」といった視点で読むとよいと思います。